Kabuku Connect 即時見積機能のバックエンド開発
ソフトウェアエンジニアの花岡です。B2B 向けオンデマンド製造プラットフォーム Kabuku Connect において、CNC 切削加工と 3D プリント製造向け即時見積機能(設計図をアップロードするだけで即時に製造見積金額を提示する機能)を開発しています。今回は主に私が開発した内容について書きたいと思います。
概要
即時見積機能の主なユースケースは以下の通りです。
- ユーザが 2D/3D ファイルをアップロードする
- システムがファイルを解析する
- ユーザが工法(CNC 切削加工/3D プリント)と材質/素材を選択する
- システムが即時見積し仮見積を表示する
- ユーザが本見積を依頼する
ここで、即時見積には自動見積とオペレータ見積の 2 種類があります。自動見積はアップロードされたファイルや加工指示内容を元に自動で製造費用の仮見積を表示します。オペレータ見積はユーザがオペレータ見積を依頼した後でオペレータが独自開発の内部ツールを使って製造費用を見積もるというものです。
私は、要件定義、API の設計、Datastore のモデル設計、バックエンドの設計・実装・テスト、CI/CD 環境の構築などをしています。
構成
バックエンドは GAE/Python で Web フレームワークは Falcon です。リソースとスケジュールから GAE/Python を、GAE での起動時間と経験から Falcon を選択しました。
Falcon は Python の Web フレームワークとしてはマイナーな方だとは思いますが、Falcon のリソースの実装は薄くしていて、かつ、完全に分離しているので、別の Web フレームワークへの移行も容易なはずです。
フロントエンドは Angular で GAE/Node に SSR されています。
Web API の開発は、まず OpenAPI 3 ドキュメントを書き、フロントエンドは openapi-generator でクライアントを生成し、バックエンドは OpenAPI 3 ドキュメントをもとにリクエストをバリデーションする、という OpenAPI 3 ファーストなアプローチをとっています。
OpenAPI 3 ファーストな Web アプリケーション開発
バックエンドに関しては、OpenAPI 2(=Swagger)を使った既存のプロジェクトでは以下のような点が気になっていました。
- リソース実装ごとにリクエストバリデーションのデコレータを書いている
- URL のパスとリソース実装のマッピングが OpenAPI ドキュメントの
operationId
と重複している
そこで本プロジェクトでは OpenAPI 3 を使うとともに OpenAPI 3 ファーストな Web アプリケーション開発(Python で API 編) のように自動化しています。その流れで公開した falcon-oas は
I think it’s the most solid OpenAPI implementation for Python out there.
というコメントもいただき、バリデーション部分を python-oas に抽出しています。
Python のリントとテスト
プロジェクトメンバ全員が single quote 派だったため、Black に single quote パッチを当てた ffffff で自動フォーマットしています。また import 文は isort で自動ソートしています。
リントは flake8 と mypy です。テストは pytest でカバレッジは 100% をキープしています。
CI/CD 環境の構築
新規プロジェクトだったため CI/CD 環境をどうするかという課題がありました(即時見積機能は、Kabuku Connect の機能の一部ではあるのですが、Kabuku Connect とは別の GCP プロジェクトです。)。既存のプロジェクトでは Jenkins を使っていましたが、速度や扱いにくさなどで不満があり、プロジェクトの最初から Google Cloud Build(GCB)による CI/CD 環境を構築しました。
Bitbucket に push すると、サイトや Swagger UI がデプロイされ、それらの URL が Slack に通知されます。Slack だけだとメッセージが流れてしまうので、Bitbucket のコミットのビルドステータスにも連携するようにし、PR からそれらの URL を参照することができるようにもしました。プロジェクトの初期からずっとこの恩恵を得ることができているので良い仕事だったと思っています。
Slack 通知は OpenAPI 3 ファーストな Web アプリケーション開発(環境編)では
のように色とテキストで成功と失敗を切り替えていましたが、現在は
のように絵文字を使うようにしました。絵文字はデプロイ時に設定できるようにしているのでプロジェクトによって変更しています。このように CI/CD 環境や運用周りは少しずつ安定にしたり改善しています。
機能の紹介と開発の工夫
非ログイン状態とメールアドレス未確認ユーザの対応
非ログイン状態やメールアドレス未確認ユーザであってもファイルのアップロードをして自動見積を確認することはできる仕様です。
オペレータ見積依頼や本見積に進む場合はメールアドレス確認済みのユーザでログインしている必要があります(オペレータ見積依頼は見積完了通知のためです)。
このような認証は、前述した OpenAPI 3 のアクセス制御を Falcon から自動で参照して実現しています。たとえば
paths:
/api/v1/private:
get:
responses:
'200':
description: success
security:
- session_cookie: []
/api/v1/public:
get:
responses:
'200':
description: success
components:
securitySchemes:
session_cookie:
type: apiKey
name: session
in: cookie
のように session_cookie
Security Scheme を定義して、/api/v1/private
の GET
リクエストのみ適用するという定義ができます。これを Python の実装とどう関連付けるかは OpenAPI 3 ファーストな Web アプリケーション開発(Python で API 編)を参照してください。
最大 100 MB のファイルを GCS にアップロードさせてサービスに登録する
GAE/Python のリクエストボディの最大サイズはが 32 MB のため、100 MB のファイルをサポートするために、GCS にアップロードされたファイルを登録するようになっています。
ファイル解析サービスと連携して、アップロードされたファイルを解析する
ファイル解析サービス(図面ファイルを解析し構成要素を抽出するサービス)と連携して様々な解析をします。ファイルの種類に応じて解析内容は変わります。解析の種類をスキーマとともに定義し、新しい解析の追加が容易にできるようになっています。
解析されたファイルの情報などをもとに見積方法を判定する
解析されたファイルの情報や材質/素材の情報などをもとに
- 自動見積
- オペレータ見積
- 即時見積の対象外
に分類します。分類器は条件によって変わり、かつ、新しい材質/素材の追加に対応する必要がありました。ここは最初の段階ではオペレータ見積などの仕様が未定なことも多く追加・変更が激しいことがわかっていたので、最小限の実装から進めていきました。
解析されたファイルの情報、工法、材質/素材をもとに自動見積する
(機密です)
オペレータ見積
オペレータ見積は 1 週間で開発し最近リリースした機能です。最初のリリースでは自動見積だけでしたがオペレータ見積を追加しました。
オペレータ見積関連のイベント通知機能(Email 送信)には
- ユーザからのオペレータ見積依頼イベントをオペレータに通知
- オペレータからのオペレータ見積完了イベントをユーザに通知
などがあります。オペレータへの Email 送信は Slack にも Cc で通知されます。
オペレータ見積依頼してからユーザがメールアドレスを変更した場合、見積完了時には新しいメールアドレスに通知したいものです。そこで全体として 1 週間という工数内で可能なこととして、最新のユーザ情報を参照可能な Kabuku Connect に
- ユーザ ID をもとに最新のユーザ情報の取得 API
- ユーザ ID をもとに最新のメールアドレスに Email を送信する API
のいずれかを開発することを考えました。ユーザ情報取得 API の汎用性はありますが、Kabuku Connect の既存の Email 送信機能を使うことで他の Email と同様に保存される点を今回は選ぶことにしました。
オペレータ見積は、オペレータが手動で見積する機能を、自動見積の後で追加するということしか決まっていませんでした。私はこのようなふわっとした機能を丸投げされるのが得意だと思っています。
ユーザにとっての状態遷移図を書いて確認したり、即時見積機能としては本見積依頼に進んでいただくことが最初のゴールなので、その障壁とならないような UI/UX を提案したりして進めていきました。
実装について考えるのはその後です。このように考えた理想を技術で解決するのがおもしろくないでしょうか。
今後の展望
Kabuku Connect の即時見積機能としては、近々さらに大きな機能のリリースを予定していて、それらの機能の開発を進めています。
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